狂気で満ちた純愛故に

 

今日は皆疲れているからということで一人一部屋を取ることにした。
疲れの所為か皆早くに自分に割り当てられた部屋に入り、眠りについていった。
そんな中、ルークは何故かふと目が明いてしまった。
明日も朝早くに出るのだから、と思うのだがそう思えば思う程、目が冴えて眠れない。
暫くベッドの中で寝返りを繰り返していると、隣の部屋から物音が聞こえた。

隣の部屋は確かガイだったはず…

ルークはガイも起きているのなら眠気が来るまで話をしようかと考えた。
もし、ガイが許してくれるなら、一緒に寝ようかとも考える。
ルークは少しうきうきしながら隣のガイの部屋へ向かった。

ルークはガイが好きだった。
ルークはガイに恋をしていた。
ずっと傍にいて欲しいと

思ってた。






ルークはゆっくりとガイの部屋の扉を開けた。
「ガイ…?」
部屋を見渡し、ガイの姿を探すが見あたらない。
「おかしいなぁ…」
確かに物音がした筈なんだけど…とあたりを見渡すと、洗面所のドアが僅かに開いており、
そこから物音と声が聞こえた。
「…?誰か一緒にいるのか?」
ルークはその扉の隙間から中を覗く。

そして言葉を失った。






そこにはガイとジェイドがいた。
だが、ただ一緒にいるというわけではなかった。


ガイは洗面台に座り、頬を紅く染め、呼吸も荒く、ぐったりと後ろにある大きな鏡に凭れている。
シャツは肩からずり落ち、普段隠れている胸元が見えている。
そこには赤い痕が点々とあるのが見えた。
下は何も身に付けておらず、その長い足は目の前に立っているジェイドの肩に担がれている。
ジェイドはガイとは正反対に上着を一枚脱いだだけで、他は全く乱れていない。
表情もいつもの彼だ。
ジェイドが僅かに腰を動かした。

「あっ…!」

途端に漏れる、今まで聞いたことのない、ガイの艶っぽい声。


よく見ると、ジェイドのものはガイの中に埋め込まれていた。





「………っ!」

ルークはあまりの光景に衝撃を受け、動けなくなった。
動けずに言葉も出ず、その光景を見ていると、鏡ごしにジェイドと目があった。
ルークはびくりと震える。
鏡ごしのジェイドの赤い瞳に射抜かれ指先さえ動かない。
自分の体が自分のものじゃなくなったかのようだ。
そんなルークを鏡ごしに見たジェイドは笑みを零した。
しかしその笑みはルークが見慣れているいつもの彼の笑顔ではなかった。
いつもの余裕のある笑みでも、喰えないような笑みでもない。

「……!」

ルークは恐怖のあまり息を呑んだ。


ジェイドの笑みがあまりに暗く恐ろしいもので。




ジェイドは鏡ごしのルークから目を逸らし、ガイを見つめる。
「ガイ」
呼べばガイは閉じられていた目を開き、ジェイドを見つめた。
ガイの瞳は潤み、今にも涙が零れ落ちそうな程だ。
ジェイドはガイの背中にそっと腕を回し、鏡に凭れ掛かっていたガイの上体を起こす。
「んぁ・・・!」
その僅かな動きだけでもガイは感じてしまったらしく、甘い声を漏らした。
半開きのその口をジェイドはルークに見せつけるようにゆっくりと、ねっとりと舐め上げる。
途端に艶やかに赤く光る唇。
「ジェイ、ド…」
「どうしました、ガイ?」
ガイは何かを訴えるようにその潤んだスカイブルーの瞳でジェイドを見つめ、
もう力の入らない腕をジェイドの背に回した。
「も、はやくっ・・・!」
「早く?どうすれば良いのですか?」
慈しむような目で見つめ、その赤い唇を指でなぞれば、それにさえ感じるのか
ガイは目を閉じ、「んっ…」と声を漏らす。

「も、だめ…早く、動いて…!」
耐えきれず、遂に蒼い瞳から涙が零れた。
頬を伝っていく涙をジェイドが優しく舌で舐め取る。
「いい子ですね。…しっかり掴まってて下さいね?」
ルークが今まで聞いたことのない、ジェイドの優しい声色。
ガイはこくりと頷き、背中に回した腕に力を入れた。
それと同時にジェイドは激しく動き出した。
「あ、あぁあっ!!!」
ぐちゅぐちゅと二人の繋がった箇所から粘着質な音が響く。
それよりも何よりもガイの甘く艶っぽい声が、辺りに響く。
ルークは耳を塞ぎたくなった。
けれど体がまだ動かない。
そんなルークにもっと見ろというかのように、ジェイドは更に激しくガイを突く。
ガイが壊れてしまうんじゃないかと思えるほどに。
「あ、やぁっ!!もっ、むりぃ…!ジェイドっ…!」
「いいですよ。イっても」
ジェイドはそう言ってガイの足を更に高く担ぎ上げ、ギリギリまで腰を引いたかと思うと、
勢いよく腰を叩き付けた。
「あああぁっ!!!」
一際大きな声を出し、ガイは果てた。
ガイの精液がジェイドの服を汚す。
「…っ」
ジェイドは僅かに眉を顰め、腰を軽く2、3度動かしたあと、ゆっくりとガイの体内から引き抜いた。
引き抜くとガイの蕾からは今放たれたばかりのジェイドの精液が溢れ出てくる。
ガイは気を失ってしまったらしく、体をぐったりとしたまま動かない。
そんなガイをそっと抱き締め、ジェイドは再び鏡ごしにルークを見た。

そしてまた笑った。

あの恐ろしい寒気のする、笑顔で。
ルークはやっとのことで足を動かし、その場から走り去った。
体の震えが

止まらなかった。










翌日、一行は予定通りの時間に宿を出た。
ルークは気分が悪かった。
いつもは先頭を歩いているルークだが、今日は皆と少し離れ後ろを歩く。
昨日の出来事が瞼の裏に張り付いて取れない。


見たことのないガイ。


いつもと違うジェイド。


全てが恐ろしくて、怖くて、思い出すだけで体が震えだす。
「ルーク、どうしたんだ?具合が悪いのか?」
「ガイ…」
ガイはいつものガイだった。
元気のないルークを心配そうに見つめるガイ。
昨日のことは夢だったんじゃないか、と思い始めたその時。





「どうかしたんですか?」





肩がびくりと跳ねる。
赤い瞳の持ち主はいつもの笑みを浮かべていた。
「ジェイド、ルークが具合悪そうなんだ。ちょっと診てもらってもいいか?」
「わかりました。ではガイは先頭に行ってもらえますか?
女性陣が先頭だと、敵が襲ってきた場合危険ですから」
「ああ、わかった」
ルークはジェイドと二人っきりになりたくなかった。
急いでガイを引き止めようとしたが、ガイはそれに気付かず、前へ行ってしまった。


怖い。


本能でそう感じた。
昨日のジェイドの凍りつくような冷たい笑みが頭を過ぎり、
ジェイドの顔を見ることが出来ず、ルークは下を向いた。




「ルーク、覗き見はいけませんねぇ」




背筋が凍った。

冷や汗が流れる。

「じぇ、いど」
「おや、どうしたのですか?いつもの私と違って驚いているのですか?」
そうだ、今までの、ルークの知るジェイドは、言葉は冷たくて現実的で理論的なことばかり言っているが、
本当は優しくて、仲間のことを思ってくれている、そんな人物だった。
自分にも時々だが気遣ったりしてくれた。
だが、今隣にいるジェイドは。

「はっきり言いましょうか。いつもの私は『演技』ですよ」

「え、んぎ・・・?」

ルークはその言葉でようやく顔を上げ、ジェイドを見た。
そこには昨日と同じ氷の笑顔。
「ガイは貴方がお気に入りみたいですから、貴方に優しくしてればガイは私に好意を抱くってわけです。
ただ利用しただけですよ。貴方をね」
ジェイドの口から語られる真実にルークは目を見開く。
「利用…?」
「えぇ。ただでさえガイに好意を抱いてるなんて邪魔なモノは、利用する価値もなければ殺してますよ。
あなたを殺せばガイが悲しみますしね。とりあえず利用もできるし、生かしておいてるだけです」
赤い瞳がルークを射抜く。
体が震え始める。

「わかったならガイに必要以上近寄らないで下さい。あと、この事を言えば…どうなるかわかりますよね?」

緊張のあまり喉が張り付く。
震える声で言葉を紡ぐ。



「…狂ってる」

「光栄ですね。えぇ、私はガイに狂ってますよ。ガイを手に入れる為ならば何でもする。
…貴方を殺すこともね」



ジェイドは氷の笑みからいつもの笑みに張り替える。

そして歩みを早め先頭のガイの横に並んだ。
「ルークは?」
「少し寝不足のようですね。今日はルークにあまり負担をかけないよう戦いましょう」


赤い瞳を細め、ガイに微笑む。


その笑みにガイも笑顔で返した。