ブウサギの散歩が終わり、ブウサギ達を帰そうと陛下の部屋に戻って来た時だった。
「ジェイド、お前の見合いの席を用意したぞ」
陛下の低く、凛とした声。
その声に俺は扉を開けようとドアノブに触れた右手を止めた。
みあい…?
その言葉にいけないと思いつつも思わず聞き耳を立ててしまう。
たった一つの単語に自分の心臓は馬鹿みたいにバクバクいっている。
「貴方、の間違いでは?」
「いや、お前の、だ」
陛下とジェイドのいつもの遠慮の無い応酬が聞こえる。
「何故見合いなどしなくてはならないのです」
呆れている様な声色。
きっとジェイドは眉間に皺を寄せて、中指で眼鏡を上げているだろう。
「35歳にもなって結婚もしなければ付き合っている女もいない。
軍の名家カーティス家に後継ぎがいないとなると由々しき事態だ」
「そんなの私のように養子を取ればいいんですよ」
「更に!天才と謳われるジェイド・カーティスの子となれば将来マルクトにとって貴重な人材になる事は間違いなし!
…と喚き立てる奴らが結構いてな」
「…くだらない…貴方も同じ考えで?」
「いんや。俺はぶっちゃけどうでもいい」
「でしたら」
「だが、あまりに煩くてな。見合いの一回でもすれば大人しくなるだろう。
という事で明日の昼、見合いをするぞ」
「…明日の昼とはまた急ですね」
「善は急げ、と言うだろう?」
「…私にとっては全く善ではないのですが」
「そう言うな。なかなか良い女だったぞ?」
それ以上は聞く事が出来なくて、俺は部屋に入らずブウサギ達を連れたまま、また外へ出て行った。
頭の中では先程の二人の会話がリフレインする。
見合い…
胸に何かが詰まっているみたいにモヤモヤして苦しい。
この感情を俺は知っている。
ジェイドと付き合い始めてから度々自分を支配するこの感情。
これは嫉妬だ。
見知らぬ女と話をするジェイドを考えただけで、嫉妬で思考が掻き乱される。
もしかしたら男である自分よりも、その女を選ぶのではないかと思うと
不安で不安で苦しくて、窒息死しそうになる。
俺は、俺は…
「…陛下」
「ああ、ガイラルディア、だな」
「聞かれてしまったではないですか」
「俺の所為じゃないぞ。まぁ、しっかりフォローしとけよ」
俺は
貴方に俺だけを愛して欲しいんだ。
貴方以外を愛することなど出来ないと貴方は笑った
あの話を聞いてジェイドから離れられる訳がなかった。
ジェイドの仕事が終わる頃にジェイドの部屋へ行く。
そうすれば軍服を脱いだジェイドが笑顔で俺を迎え入れてくれた。
そこからはもう、離れることなど出来なくて。
「今日のガイは甘えんぼですねー」
「そうか…?」
今、俺はベッドの上にジェイドと二人で座っている。
何をするわけでもなく、ただジェイドの隣に座っているだけで。
…少しでもジェイドの傍を離れたくなかった。
離れれば不安と嫉妬で押し潰されてしまいそうな気がした。
「ええ、いつもは紅茶を飲んだり本を読んだり何かしているのに、今日は来てからずっと
こうしてくっついて私にくっついてますからね」
そう指摘されて迷惑だったかと思い、少しだけ距離を置こうと横にずれようとした、が。
「うあっ!?」
一瞬何が起きたかわからなかった。
視界が回転し、気付けば目の前は天井とジェイドの顔。
両手首はジェイドによって抑えられていて。
「え…?」
「いえ、もっと甘えていただこうかと思いましてv」
唇が合わされる。
そのまま深く口付けられ、舌を絡め取られた。
「ふぁ…んっ…」
唾液も呼吸さえも全て奪われるような深い口付け。
口付けに、酔う。
「は、ぁ、はぁっ…」
軽い酸欠で頭がくらくらしてボーっとする。
その間に着ていた服はテキパキとジェイドによって脱がされていく。
「ジェイド…!」
「もっと甘えて下さい」
甘えていいのだろうか。
甘えて、俺だけを愛してくれと、我儘を言ってもいいのだろうか。
しかしそんな事言えるわけもなくて。
ジェイドの首に腕を回して抱き寄せた。
それにジェイドは満足そうに笑い、先程のキスで昂ぶったガイ自身にそっと触れる。
「あっ…!」
そのまま優しく上下に扱き上げつつ、ガイの耳に舌を差し入れる。
鼓膜に響く水音に、全身の感覚が研ぎ澄まされていく。
「ガイ、気持ち良いですか…?」
「やっ、き、くな…!」
透明な体液がガイ自身から溢れ、ジェイドの手によって淫らな水音が奏でられる。
クチュクチュと部屋に響く粘着質な水音。
その音に聴覚まで犯されているようで、ガイは更に昂ぶっていく。
「ひっ、あっあぁ!ジェイドっ、も…!」
「まだ駄目ですよ」
ぐっと親指で尿道を押さえられる。
それにビクリと体が震えた。
そのままガイの胸の上で赤く色付く飾りに歯を立てれば、ガイの口からは更に嬌声が漏れる。
「あ、あっ、ジェイ、ドぉ…!」
ガイの声がどんどん甘くなっていく。
その声はジェイドさえも昂ぶらせて。
ガイの昂ぶりから溢れた先走りがガイ自身を伝い、ガイの蕾はすっかり潤んでいた。
そこに指を添える。
「あっ…!」
ヒクヒクと指を飲み込もうと収縮する蕾。
その動きに導かれるようにゆっくりと中指を差し入れる。
「あ、あ、あっ…!」
入れた指を増やしつつ、出し入れしてガイのイイ所を突付いてやれば、
ガイは女よりも甘い極上の喘ぎ声で鳴く。
「ひっあぁっあ、んっ!」
中を掻き乱していた三本の指を抜く時には既に蕾はぐしょぐしょに濡れ、熟した果実の様にいやらしく光っていた。
その光景は何度体を繋げても思わず見入ってしまう程だ。
「ガイ、力を抜いて下さい」
「んっ…!」
ぴたっと入り口にジェイド自身を当てただけで、ガイの体はこれから来るであろう衝撃を想像し、強張ってしまう。
それを少しでも緩めようと、涙と唾液でぐしょぐしょになってしまった顔にキスを降らせる。
頬、額、鼻、瞼、唇…。
徐々に力が抜けてきたのを確認し、ジェイドは一気に、
突き入れた。
「あああぁっ!!」
「くっ…!」
凄まじい程の締め付け。
それに耐え、ジェイドは律動を開始する。
「ひっ、あっんぁ、あ!」
出し入れする度に響くいやらしい水音。
ガイはその衝撃と快楽に耐えるようにシーツを手繰り寄せ、爪の色が白く変わる程強く握り締める。
「ガイ…」
それに気付いたジェイドがガイの腕を取り、背に回させる。
「ジェイド、ジェイドぉ…!」
「ガイ」
時間が経つにつれ激しさを増すグラインド。
ガクガクと揺さ振られながらも耐えようとジェイドの背に爪を立てる。
これ以上無い程にジェイドのぬくもりを感じるこの距離。
離したくなくて、必死にジェイドにしがみ付く。
離さないで
離さないでくれ、ジェイド。
止めどなく流れるこの涙は快楽の所為なのか、それとも別の何かの所為なのか。
自分自身にさえわからない。
「ひっあぁっっ…!!!」
ガッとジェイドの昂ぶりが前立腺を突く。
その瞬間、快感と呼ぶには余りに強い衝撃に、ガイは自分の腹に精を吐き出した。
ビクビクと痙攣する体。
「…っ」
その締め付けにジェイドもガイの中に吐精した。
奥に熱い熱を感じ、ゆっくりと沈み始める意識の中、
涙がまた一筋流れた。
ジェイド、
「ずっと…」
傍にいてくれ…。
なんて、
我儘。
隣で寝ている青年を起こさないようにそっと身を起こし、ベッドを降りる。
見合いと言ってはいるが、別に軍服でも構わないだろうと思い、着慣れた軍服の袖に腕を通した。
「…ジェ、イド…」
呟かれた声に、ジェイドは起こしてしまったかと、ベッドの上の青年に目を向けた。
しかし、どうやら寝言だったらしく、彼は静かに寝息を立てている。
だが、彼の寝顔を見て、ジェイドは僅かに目を見開いた。
彼の目からは涙が溢れ、零れていた。
彼は自分の名を呼びながら泣いているのだ。
胸が締め付けられるようだった。
「ガイ…」
すぐ戻ってきます。
そっとガイの目元を拭い、ジェイドは静かに部屋を出た。
気乗りのしない見合い、無駄に豪華な装飾が施された部屋。
はっきり言って気分は最悪だ。
大きい豪華なテーブルの向こう側には女性とその父親が座っている。
…成る程、確かに見目は良いようだ。
身に付けている装飾品や服装はどれも値がはりそうなものばかりで、
流石は貴族、と心の中で呟く。
しかし、幾ら外見を着飾っても、ガイのような気品が感じられない。
金に物を言わせているようなその雰囲気や物腰に、更にジェイドの気分は降下していく。
女は内気なようで、何もしゃべらず、やや下を向いているだけで、ほとんど父親がペラペラと喋っている。
「で、カーティス大佐は我が娘をどうお思いで?」
どうお思いでも何も、初対面な上、一言も喋っていないこの女にどんな感情を抱くというのだ。
内心嫌気がさしてくる。
どう答えて逃げるか。
そう考えていた時だった。
ふと、今朝のガイが頭を過ぎった。
『…ジェ、イド…』
切ない声。
溢れる涙。
彼は起きて、隣に誰もいないのを知ったらどう思うだろうか。
今頃、彼は…。
ガタンッ
部屋に響くイスの音。
突然勢い良く立ち上がったジェイドに、目の前の親子は驚き、ジェイドを凝視する。
「カ、カーティス大佐…?」
「失礼、私の好きな人が泣いている気がしますので、ここで失礼させていただきます」
そのまま扉へ向かって歩き出すジェイドに父親が慌てて立ち上がり、大声を浴びせる。
「な、何を考えているのだ!!見合いの途中に帰るなど、世間体がどうなってもいいのか!?」
その発言に振り返り、ジェイドは背筋が凍るような極上の笑顔を見せる。
「世間体?そんなのクソ食らえですよ」
笑顔から氷のような顔に戻り、ジェイドは部屋を出た。
部屋の中で何やら喚き立てている、品の無い声が聞こえたが無視し、
ガイのいるであろう己の部屋に急いだ。
起きると隣にはジェイドの姿が無かった。
部屋の中には気配も無く、冷え切った隣のシーツに絶望した。
やはり彼は行ってしまった。
見合いに行っただけで自分との関係が終わるわけではないのだが、
そんな冷静に考える事も出来なくて。
呆然とジェイドのいた、しかし今は冷え切ってしまっている自分の隣を見詰める。
どれ位そうしていただろうか。
ガチャリと扉の開く音に我に返る。
「ガイ」
「ジェイド…?」
そこには今頃見合いをしているであろう人物が立っていた。
「ど、して…見合いは…」
「途中で抜けてきました」
「抜けてきたって…!」
陛下が直々に勧めた見合いだ。
恐らく位の高い貴族か何かだろう。
その見合いの途中に帰るなんて…。
動揺しているガイに微笑み、ジェイドはガイの傍に歩み寄る。
そしてガイの顎に指を添え、口付けた。
「んっ…」
唇を離し、今度は額に唇を落とす。
「ジェイド…?」
「貴方は嫉妬する事も、不安に思う事も無いんですよ。
私は貴方以外愛せそうにありませんから。
まぁ、貴方以外愛するつもりもありませんが」
再び落ちてくる口付けに、
嬉しすぎる程のその言葉に、
俺は酔い痴れる。
俺だけを愛してほしい。
なんて我儘。
それをあっさりと許し、叶えてしまう貴方に、
俺はまた酔い痴れた。