白い厚紙で出来た箱を開ければ
目に飛び込んでくるのはお店で売っているものと同じくらい、
いや、贔屓目だと言われるかもしれないが、
それ以上に綺麗に、よく出来たホールサイズのチョコレートケーキ。
白い生クリームが惜しみなくたっぷりと乗っていて、
その上には鮮やかな赤、苺やラズベリーが沢山乗っている。
ゆっくりとそのケーキにナイフを入れ、
皿の上に乗せてみれば、これまた美しい。
チョコスポンジの間にはまた生クリームと赤い果実が挟まっていて、
断面までもが芸術品だ。
そんな美しいケーキを暫くじっくりと眺め、
満足したら、フォークを手に持ち、一口サイズに切り、口の中へ。
「…美味い」
ぽつりと呟いた言葉が部屋に響く。
本当に美味い。
そこら辺のプロの作ったケーキより断然美味い。
もう一口食べようとフォークをケーキに挿した時。
「頭領。お茶を持ってきました」
「あ、ありがとう」
己の右腕である、刃鳥がお茶を持って現れた。
その瞬間、漂ってきた匂いにいつもの日本茶ではないことに気付く。
「良守くんのケーキとのことなので、紅茶を淹れました」
さすが刃鳥。気が利く。
ケーキに日本茶も、まぁ悪くはないが、
やはり日本茶特有の匂いや苦味で、洋菓子は美味しさが損なわれる気がする。
ケーキの横に置かれた淹れたての紅茶を口に含む。
爽やかな甘味と僅かな渋みがケーキと良く合う。
「刃鳥、お前も食べていいよ」
「いいんですか?」
最愛の弟、良守の作ったケーキだ。
本当は独り占めしたい気分だが、
流石に一人でこのホールサイズのケーキは食べきれないだろう。
それに態々、ケーキに合わせて紅茶を淹れてきてくれたのだ。
聞くや否や、いそいそと、心なしか嬉しそうに持って来た刃鳥の皿に、
お礼の意味も込めて、ケーキを切り分け、刃鳥に渡す。
「…美味しいですね」
「ああ」
静かに、二人で良守の作ったチョコレートケーキを食べる。
外からは鳥の囀りが聞こえてくる。
…平和だ。
「刃鳥、どこか美味しい菓子、ないかな?」
「良守くんへのお土産ですか?」
「うん」
ぱくり。
もくもく。
殆ど砂糖が使われていない、滑らかで濃厚な生クリームと、
甘味が抑えられたチョコレートのスポンジ、
そして甘酸っぱく、香り高い苺とラズベリーが
口の中で混ざり合い、二人に至福の時を与える。
「最近、近くにタルト専門店が出来たそうですよ。美味しいと評判なようですが」
「タルトか、いいね。良守、洋菓子の方が好きみたいだし」
ぱくり。
もくもく。
穏やかな時間が流れる。
「このこと、他の奴らには内緒ね。知ったら悔しがるから」
ケーキをフォークで指差しながら笑う。
「はい」
刃鳥も微笑む。
「ケーキ、本当に美味しいですね」
「良守が作ったんだから、当たり前だろう?」
つかの間の休息
「良守、新しく出来たタルト専門店のケーキなんだけど、食べる?」
「食べるっ!!」