誰もいなく、物もない、空虚な空間。
生活感どころか、何も感じることさえできないその空間に、
僅かに『兄』を感じ取り、良守は息を吐いた。
誰にも言えない、言ったところで嫌悪されるのがオチなこの感情に
心臓が締め付けられるような感覚に襲われ、
壁伝いにずるずると座り込む。
いつから、なんてわからない。
ずっと前から好きだった。
血の繋がった、実の兄が。
これが『兄』に対する『好き』だったらどんなに良かっただろう。
どんなに楽だっただろう。
だが、残念なことに違うのだ。
自分は『正守』が好きなのだ。
恋愛感情として、好きになってしまったのだ。
愛してしまったのだ。
男同士で、兄弟で。
不毛もいいところだ。
叶うわけもない恋心。
しかもその兄は自分のことを嫌っている。
憎んでいる。
実際そう言われたことはないが、そうに決まっている。
自分には兄に現れなかった方印があるから。
俺がいなければ、兄貴は家を出なくてもよかった。
俺がいなければ、兄貴は家を継ぐ筈だった。
俺がいなければ。
全くといっていいほど家に帰って来ない兄。
きっとそれは俺がいるから。
それでも、
それでも、
俺は兄貴が好きなんだ。
優しくされたいと、
傍にいてほしいと、
抱かれたいと、
愛して欲しいと、
そう思う俺は、
浅ましい?
それとも
愚か?
瞳を閉じ、深く息を吸い込む。
そうすれば、また部屋に少しだけ残る、兄を感じ取って、
体が疼き始める。
僅かに反応し始めた下半身の欲望に、
良守はズボンのファスナーを下げ、直接触れた。
「んっ…!」
触れた手の冷たさに、思わず体が跳ねる。
ゆっくりと立ち上がり始めた肉棒を包み込み、擦る。
「ふっ、あ…」
それだけで肉棒は更に硬くなって天を向く。
目をきつく閉じて、先程よりも強く擦りあげれば、
脳裏に浮かぶのは兄の姿。
「あ、ああぁっ」
兄を思い浮かべた瞬間、鋭い快楽が体を駆け巡った。
その快楽に夢中になる。
スピードをあげ、自分自身を追い詰めるように擦り上げる。
親指で先端に触れると、そこからはぬるりとした液体が溢れ出ていた。
透明な、その粘着質な体液は止まる事無く溢れ出て、
気付けば擦りあげている手によって肉棒全体に塗りたくられていた。
「やっ、んあぁ…ん、ふぅっ」
自分の淫らな声と、
ぐちゅぐちゅと響く水音に、
欲望は高まっていくばかりで。
「ん、あぁ、あ、にき…!」
兄貴が、その大きな手で、俺のに触れる。
そう想像した瞬間、今までにないぐらいの興奮が駆け巡って、
親指の爪で先端をぐりっと押し込み、引掻いた。
「あああぁぁっ…!」
あまりの快楽に頭が真っ白になった。
体が強張り、勢い良く精液が飛び出して、服にかかる。
どくりどくりとまだ溢れ出てくる精液と共に、
思考がクリアになっていって。
虚しさに目頭が熱くなった。
「あに、き…!」
どうしようもなく、好きなんだ。
叶うわけないと、わかっていながら望みを捨てきれずにいるぐらい。
どうか、
俺を好きになってください。
望み叶わず
望みが叶ったところで先にあるのは闇だと知っていながら、
焦がれずにはいられないんだ。