アグライア
〜ラケシスは思いを馳せる〜
『ユリア様…』
『私はなんということを…私はただ、スコアで見た、世界の結末を変えたかっただけなのに…!』
『お気を、お気を確かに、ユリア様』
『世界の未来を変える為にこの『ゼロスコア』を作ったというのに…こんな恐ろしい力になってしまうなんて…!』
『未来を意のままに作ってしまう、『ゼロスコア』、か…』
『封印しましょう。もうそれしか方法が無い』
『けれど、あまりに力が強すぎて、私一人では封印できないわ…なにか、封印するための『器』がないと…』
『ユリア様、私をお使い下さい』
『なっ!?』
『私を『器』としてお使い下さい、ユリア様』
それが遥か昔、創世歴時代の話。
ユリア・ジュエは一人の男を『ゼロスコアの器』とし、
更に、二度と封印が解かれる事の無いように、と『カムイエルナ』の地でなければ『ゼロスコア』は使えないようにし、
その『カムイエルナ』の地、自体を島の中に隠し、封印した。
そして6箇所に大量の血でなくては解けない封印を作った。
それでも不安だったユリアは自らの子達に代々『ゼロスコアの器』を守るよう、伝えた。
後に、カムイエルナの封印された島は「ホド」と名付けられ、
その封印を守るように『ゼロスコアの器』…ゼロスコアを受け継ぎし者と、
その『器』を守るようにユリアの子孫が生きてきた。
…ゼロスコアを受け継ぎし者、ガルディオス家と、
受け継ぎし者を守る者、フェンデ家が…。
「そんな…」
「『未来を創りだす』…ですか。確かに使いようによっては恐ろしい力ですね」
あれからガイ達はマルクトに戻り、ガイの口から全てが語られた。
その真実は悲しくも、恐ろしいものだった。
「ようするに、『ゼロスコア』はホドのあった地点に出現した『カムイエルナ』の地に
『ゼロスコアを受け継ぎし者』であるガイが行って始めて発動するわけですね」
ジェイドの言葉にガイは深く頷く。
「ああ。もう俺しか『ゼロスコア』を発動させることができる人間はいないからな」
「だからエルトリアはガイを何度も攫おうとしたんですね。
ガイを使って自分の望みを叶えようと…」
「けれど、何故エルトリアは『ゼロスコア』のことを知ったのでしょうか?」
「恐らく、ヴァン・グランツがそのことについて書かれた書物か何かを持っていたのでしょう。
それをエルトリアが見つけた…頭のいい彼のことです。すぐにそれを理解し、利用しようとした」
「でもさ、それってガイがカムイエルナってとこに行かなければいい話じゃねぇの?」
「それがそうもいかないんだよ」
ガイはルークの言葉に苦笑する。
「もう封印は解けちまったから、無理なんだ。『ゼロスコア』は封印が解けてしまったら
俺が発動させたくなくても時間がきたら勝手に発動しちまうんだよ」
「なんだかそれ、時限爆弾みたいだね…」
「あぁ、まさにその通りだよ。勝手に発動したら、多分…世界は消滅するよ」
「えええぇぇぇ!!?マジで!?」
アニスの声が部屋に響く。
声は出していないが、その場にいる全員が驚いていた。
「まさか、そこまでの力でしたなんて…」
「ガイ、そのタイムリミットは?」
「封印が解けてから、48時間後だ」
「二日後、ですか…!」
一気に緊迫した空気が流れる。
ジェイドの額に冷汗が流れた。
「すぐに陛下にこのことを伝え、準備をしましょう。
…ガイの傷もありますし、こちらの態勢を整えなくてはいけませんから、出発は明日となりますね。
…ガイ」
「ん?なんだい、旦那」
真摯な赤い瞳がガイを見つめる。
その瞳には色々な感情が混ざり合ってるように見えた。
「…カムイエルナで貴方が、貴方の意思でゼロスコアを唱えれば…全ては解決するんですよね…?」
どこか不安が見え隠れする、その言葉に、その声に、
ガイは安心させるように笑顔を見せた。
「ああ。…なんだよ、俺がゼロスコアを悪い事に使うとでも思ったのか?」
「んなわけねーじゃん!俺達はガイのこと、信じてるもん」
ルークの、皆の気持ちに、ガイはまた笑った。
「明日で全部、終わらせようぜ!」
そう、全て。
「ルーク、ちょっといいか」
「ガイ?どうしたんだ?」
最終決戦に向け、各自自由行動となった夜、
ガイはルークの部屋を訪ねた。
夕ご飯が済んだばかりの、まだ寝るには早い時刻。
ルークの部屋のベッドにガイは腰掛ける。
ギシッとベッドが鳴る。
「ルークはさ、あの時の…ヴァンとの最終決戦に向かう前夜、何を考えてた?」
「なんだよ、いきなり」
ルークも、ガイの隣に座る。
二人分の重みを受け、ベッドは更に沈んだ。
「いや、今回の事件さ…あの時の戦いとよく似てるなと思って」
「あー、確かに」
レプリカを使った事件。
世界をかけた戦い。
そして一人の人間に世界の未来が委ねられた、この事実。
「ルークはさ、エルドラントに向かう前から、消えることを覚悟して…どう考えてた?」
「ん〜…」
暫し腕を組んで考える。
昔の自分を思い出す。
「いや、あの時は消えるかもしれないけど、絶対帰ってくる!って決めてたから。
なんだろ…よくわかんないけど、静かな気持ち、だったと思う」
「静かな、気持ち…」
「うん、静かで、強い気持ち」
静かで、強い気持ち。
「そっか」
「うん」
ガイはすくっと立ち上がった。
そして、ルークに笑顔を向ける。
「ありがとう。なんか楽になったよ」
それに対して、ルークも笑う。
「ん、よくわかんねーけど、よかった」
「邪魔してわるかったな。部屋に戻るよ」
「おう」
部屋のノブに手をかけ、扉を開く。
「じゃあな」
「…ガイ。
…戻ってくるよな?」
「当たり前だろう?じゃあな、おやすみ」
どきっとした。
本当に、時々鋭い子だ。
自分の部屋に入り、
天を仰いだ。
「戻ってくるよな、か…」
戻って、きたいさ。
皆のところに。
ジェイドのところに。
皆に只一つ隠した真実、
『ゼロスコアを唱えた直後、その者は世界から消滅する』
「本当に、あの時と同じだな…」
あの時はルークだった。
そして今回は俺が消えようとしている。
「ジェイド…」
呟き、ガイは首の禍々しい模様に指を這わせた。