「あ、いや、だ…っ」

「いや、じゃないだろう?こんなにして」


すっかり立ち上がり、蜜を零している自身に触れられれば、
一気にまた体が熱くなって、
蜜は更に溢れ出てくる。

その様を見て、兄貴は喉を震わせて笑った。

「相変わらず敏感だな」


そして俺は、いつものように涙を流す。



「お前はいつもしてる最中、泣いてるな」

そんなにイイのか?
と言いながら、涙を舐め取ろうと顔を近づけてきた兄貴から避ける為、

俺は手の甲で濡れた目を隠した。





お前にはわからない。

俺が泣いている理由が。


わかって欲しいとも思っていない。

いや、違う。


知られてはいけないのだ。





この胸を締め付け、息も出来なくなるような気持ちは。

















俺が、決して叶わぬ恋をしてから、
もう、7年が経っていた。


















想いの果てに

   
『決して叶わぬ恋に心が悲鳴を上げるんだ』
















小さい頃から俺は兄貴が好きだった。
誰にでも自慢できる兄貴で、
格好良くて、強くって、頭が良くて、優しい、兄貴だった。
俺はそんな兄貴に尊敬や羨望や敬愛や、色んな感情を抱いていて、
いつも俺は兄貴の後ろを付いて回って、見つめていた。

そんな感情が恋慕に変わるのにそう時間は掛からなかった。



まるでこうなるのが自然だったかのように、当たり前だったかのように、
俺は自分の実の兄貴への想いをすんなりと受け入れた。


そして、自分の想いに気付いたと同時に、俺は、泣いた。








決して叶わぬ、恋をしたと。








実の兄である男を好きになってしまった。









自分の想いは何処にも、誰にも届く事なく、
ただ朽ちていくのだと、知って涙を流した。






その頃からだ。

俺が兄貴に抱かれ始めたのは。




俺が、14の時だった。












































「腰、重…」

すっかり昇った太陽に目を細めながら、上体を起こす。
すると、いつもの如く、もう慣れてしまった重い痛みが腰に走る。

俺が14の時からずっと、7年間、俺は兄貴に都合のいい時に抱かれてきた。
昨日もそうで、何回もヤられて体がだるい。





俺は兄貴にとって、弟でさえなかった。

俺が兄貴に想いを寄せているのを知って、
兄貴はそれを利用して俺を抱くようになった。


要するに、都合のいい時に抱ける、性欲処理の玩具だ。


兄貴は方印を持って生まれた俺を憎んでいたから、
復讐、というのもあったのかもしれない。

抱く事によって苦しんでる俺を見て、楽しんでいるんだろう。





じゃないと、今も俺を抱き続ける理由がないからな。
…もう、結婚して、子供もいるのに、俺を抱き続ける理由が。









何度も、家を出ようか、とか考えたけど。

俺は馬鹿みたいに兄貴が好きだったから、

兄貴が俺を抱く事によって気が晴れるなら、
それで構わないと。

そう、本気で思った。
兄貴が、都合のいい玩具としてでも必要としてくれるのならば
少しでも傍にいたいと。



「本当に、馬鹿だ…」




自分の想いが叶えばいいなんて思ったこともない。
最初から、叶う筈もないのだから。

自分のことよりも、兄貴のことを思ってた。

兄貴が幸せになればいいと。
兄貴の願う事が叶えばいいと。

その為だったら俺は何だってするし、
何にだって耐えてみせると。


他人が聞いたら馬鹿にするようなそんな事を
本気で俺は思ってる。













「良おじちゃん」




襖がすーっと静かな音をたて、開けられた。
その開いたふすまから現れた少年に笑顔を浮かべた。

「彰守(あきもり)、おはよう」


数日後、7歳になる兄貴の子供が、俺の傍に駆け寄ってくる。


「良おじちゃん、おはよう!朝ご飯、出来てるよ!」

そうか、と言って俺はゆっくりと立ち上がった。
そして彰守の右手を握る。


俺と同じ、方印が浮かんでいる、小さな右手を。


そのまま廊下に出て居間へ向かう。
彰守は俺の顔を見て嬉しそうに笑っている。

「良おじちゃん、あとで術教えてくれる?」
「いいけど、お父さんは?」
「お仕事があるって、出てっちゃった…」

途端に寂しそうになる幼い顔。

兄貴は今も昔と変わらず仕事をしていて、家を出ていることが多い。
なので彰守の修行は俺がつけている。
その所為かすっかり彰守は俺に懐いていて。
烏森にも一緒に行くようになった。



昔の俺と兄貴のように、二人で。





「彰守も7歳になるしな、頑張らないと」
「良おじちゃん、もう一緒に烏森行ってくれないの…?」

墨村家では、方印を持って生まれた者は7歳で正統継承者として認められる。
7歳になった日に儀式を行い、その日から一人で烏森に行かなくてはいけないのだ。

「うん、ごめんな。でも彰守はお父さんに似て強いししっかりしてるから、大丈夫だよ」

不安そうに、けれど力強く頷いた甥に俺は目を細めた。






俺は、彰守になりたかった。

同じ方印を持っていながら、兄貴に愛されているこの子供に。

俺がもし、彰守だったら、

俺を少しでも好きになってくれたんじゃないだろうかと。






下らない考えに、俺は頭を振った。










彰守が正統継承者として認められれば、
俺はこの家にとって必要なくなる。

その時はこの家を出ようか。


家を出て、兄貴から離れれば、

兄貴も憎い相手がいなくなってすっきりするんじゃないだろうかと、

家を出ることによって、
生まれて初めて兄貴を喜ばせることができるんじゃないかと、

そう考えて、






俺は少し笑った。














こんな俺でも、兄貴を喜ばせることができるのかな?